イチとハチと笹倉
























「お前普段は何やってんだよ」
「一応大学生」
「じゃあちゃんと大学いけ」
「げ」
「空いた時間でいいから掃除洗濯炊事やれよ」
「まじか!?」
「稼ぎもしないで厄介になるんだからそれぐらいはしろ」
「ぐっ…」














『変な癖のある男』





















なんだかんだで始まってしまった同居生活も馴れればなんとかなるもので
久々に大学にいったりしながら帰りにスーパーによって
料理はできないから笹倉に言われたもの買って(料理は笹倉がする)
洗濯機の使い方も覚えて
暇になると掃除機なんかかけちゃったりして
俺ってやれば出来るじゃん的な毎日を過ごしていたのですが
一つだけ馴れない事があった


それは夜、寝るときの事だ


































「イチさん、俺本当にここに住んでいいの?」
「構わない、俺が拾ってきたんだ、部屋は相部屋だが」
「それは全然いいんですけど」




と部屋をちらっと見回す
10畳ぐらいはありそうだ
この部屋きっと家賃高いぜ






「あの、申し訳ないんですが布団かでかい布かなんか頂けたら隅っこの方で寝ますんで」
「布団は一組しかない」
「あー…じゃあ適当に寝ます」
「一緒に寝れば?」
「は!?」
「ベッドでかいから」






寝ればといわれましても
なぜ男とくっついて寝なきゃいかんのだ
と思ったが悪意も性的欲望もなく純粋に言われると断りにくい
イチさんて天然だと思うよ







「俺仕事あるから先寝てていいよ」
「あ、りがとうございます」





何の仕事してるんだろう
気になったけど何かタイミングを逃してしまったので結局寝る事にした
端っこに丸まって

































気付いたら朝だった
そして俺はイチさんに抱きしめられていた
抱きしめるっていうか抱き枕替わり?みたいな
しかも朝だから勃ってるし!
それが当たるんだよね、微妙にね
もしかしてそっちの趣味の人なんかしらとか考えちゃったり
腰に手が回されてるから抜け出せなかったりで俺の頭はパニック状態です















「い、イイイイチさん!起きて下さい!!手離して!!」
「ん…うるさ」
「わわっ!!力込めないで離せっつってんですよ!!ちょっ、誰かー!!」












スパンッ(襖)











「朝からうるせえな、さっさと…」
「さ、さくら…た…すけ」
「邪魔したな」
「ちがーう!!」

























































「…あれ、なんすか」
「まあ、癖っていうか寝相っていうか…」



あのあとベッド下に落ちていたらしいぶたの抱き枕を笹倉がイチさんに与えたら
即そっちにひっついたので俺は開放された訳です



が、








「あ、あの…イチさんてアッチの人なんですか?」
「いや、いたってノーマルだと思うが」
「なのに男に抱き着くんですか!?」
「寝相だし、つかお前の場合男以前に拾い物っていう認識しかないんじゃないか?」
「もしかして人扱いされてません?」
「多分」








今まで散々ヒモ生活をしてきたが
まがりなりにも人として扱われていた(主に男としてだが)
もしかして俺ペットと同じなんだろうか…











「でもずっとあれじゃあ可哀相だな、今度の休みに布団買いに行くか」
「え、いいの?」
「だって布団無しじゃ可哀相だしイチと寝るのも嫌だろ?」
「…ま、まあ」
「金ならイチが出すから大丈夫だって、あいつが拾ってきたんだから責任もってお前の面倒みさせるから」
「なんか申し訳ないような…」
「ヒモとかわんねえじゃん」
「だって今までは見返りにエッチしてましたもん」
「じゃあ掃除洗濯炊事やれよ」


























そして冒頭へ戻る
という訳である














あれから一週間経ったが未だに布団は買えてない
イチさんは小説家らしく、毎日机にへばり付いて離れないのだ
笹倉いわく締め切りが近いらしい
笹倉は何をやってるのか不明だ、聞いてもはぐらかされる
帰ってくる時間も早かったり遅かったり帰ってこなかったりとまちまちだ











ガラッ









さて暇だしゲームでもするかと思っていた時イチさんが部屋からでてきた
珍しい
殆ど自分から出てくる事なんてなかったのに









「あ、イチさんおはよ」
「ん、はよ」




因みに今は夕方である
しかし起きているイチさんに会うのは今日初めてである







「笹倉は?」
「今日はまだ帰ってませんよ」
「ハチ公腹減った」
「インスタントでよければ」
「いい」
「じゃちょっと待ってて下さい」
「ん」










最近イチさんは俺の事をハチ公と呼ぶ
本格的にペットになった気分だ
まあどんな呼び方でもいいんですがね














「はいどーぞ」
「ん」







俺が作ったのは具が卵だけのラーメン
インスタントだからいいだろう











「仕事終わったんすか?」
「うん、疲れた」
「寝てていいっすよ、夕飯できたら起こしにいきますし」
「じゃあハチ公も」
「へ?」
「寝る」
「はあ!?」
「ハチ公抱き心地がいい」
「俺男ですよ?」
「うん」
「イチさん俺の事ペットかなんかだと思ってません?」
「うん」





やっぱりだよ
人扱いされてねえよ
ヒモより酷いんじゃね?









「ハチ公ー明日布団買いに行ってやるから」
「うっ」
「好きなもん買ってやるから」
「ぐっ」









所詮人は欲望には勝てないのだ













「わかったわかったわかりましたよ!!」
「わーい」
「無表情で喜ばれても嬉しかないですよ」






























絶対変なのにこれが日常になりつつあるってどうなの











































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