イチとハチと笹倉














朝早くに帰ってきたイチさんは、女の匂いがした

















『そんな土曜日の事』
















目覚ましもかけていないのに、何故か目が覚めた
何故かと思えば近くで人の気配、衣擦れの音
ああ、イチさんが帰ってきたのか
ふと、頭を撫でられる感触
そしてバニラの匂い


前の前の女が好きだった匂いだ



それ以上その匂いを感じたくなくて、俺は再び眠りについた
































次に目が覚めたのは昼だった

「おそよう、ハチ公」
「おはようございます」

相変わらずイチさんからはバニラの匂いがしていた
シャワー浴びてこなかったのだろうか

「イチさん、くさい」
「加齢臭?」
「いや、香水」
「ああ、かけられた」


誰に?とは聞けなかった
まあ、俺には関係ないのだけれども


「嫌いなの?この匂い」
「好きじゃない」
「…」
「ごめんなさい、なんでもない」




イチさんが困ったような顔をしてしまったので俺は部屋をでた
居候の身で人の好みにいちゃもんつけるのは失礼だろう
リビングにいくと笹倉がいた












「おー、やっと起きたかお前」
「いつ帰ってきたの?」
「俺はついさっきだけど」
「昨日の美人って彼女?」
「だったらいいんだけどなー」
「イチさんてさ」
「ん?」
「彼女いるの?」
「お前、あいつと生活してて彼女いると思うか?」
「思わない」
「だろ?」
「けど昨日いなかったし」
「そりゃあいつも男だし」
「つかイチさんて性欲あんだね」
「何、お前拗ねてんのか?」
「別に拗ねてねーよ」





その時イチさんが部屋からでてきた





「ハチ公」
「何?」
「ファブリーズ買って来て」
「は!?」

いきりこの人は何を言うか

「俺、シャワーで匂い落とすから、部屋にまいといて」
「え、なんすか!?もしかしてさっきの気にしてる!?」
「抱き枕にした時辛いだろ」
「ってかしなくていいですから」
「いやだ」

即答されてしまった

「つかファブリーズならあるけど」
「じゃあまいといて」

そういうとイチさんはバスルームへいってしまった





「…何アレ」
「多分、俺の所為」
「よっぽどお前の事気に入ってんな」
「あんま嬉しくない」
「鏡見てみたら?」
「え?」
「や、なんでもない」


鏡?なんで?
俺変な顔してたか?


「お前らってさ、まだ同じ布団で寝てんの?」
「そんな事ないけど」
「でも抱き枕にはされてるんだ?」
「まあ、」
「それ以上は?」
「は?それ以上って?」
「いや、いいわ、何でもない」
「何だよそれ」
「忘れてくれ、はい、ファブリーズ」
「ああ、ありがとう」







それ以上って?
何かあるか?
女とだったら一緒の布団で寝て何もないって事はないけど
相手男だし、ってかイチさんだし
ないない、無理無理。













うん、多分




























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ゆれてます



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