その日は珍しくイチさんが荒れていた
『独占欲の強い男』
「さ、ささささ笹倉」
「ん?」
「なんか、イチさんの部屋から黒いオーラが出てるんですけど!!」
「オーラて、お前はオーラが見えるのか、テレビでれるぞ」
「見えないけど!!何か雰囲気が立入禁止っていうか」
「ああ、締め切り前じゃない?ほっとけばいいよ」
「いえ、俺の寝床あそこなんですけど」
「俺の部屋でいいなら来るか?」
「え、いいの?」
「俺今夜いないし」
「どこいくの?」
「お仕事」
「前々から気になってたんだけどさ、笹倉の仕事って」
「ナイショ」
「…」
気になる、秘密にされると非常に気になる
まあでも教えてくれそうもないので出来るだけ気にしない、うん、気になるけど
とりあえず今日の寝床が決まってよかった
締め切り前のイチさんは結構切羽詰ってて話しかけるなオーラをだしているけれど
部屋に入れない程じゃなかったんだ、
だけど今日はピリピリしてる、よっぽど危ないのかな
「あ、夕飯はビーフシチュー作っといたから」
「やったー!!」
「イチは自分から出てこない限り食べないからほっといていいよ」
「はーい」
笹倉が出て行って、夕飯を一人で食べて、テレビを見ていた
そろそろ寝ようかと思った所でイチさんが部屋から出てきた
「あ、イチさん、飯食べる?」
「何」
「ビーフシチューです」
「食べる」
そういうとイチさんはトイレに行った
そうだよな、ずっと籠もってたもんな
でもイチさんいつもより怖かった、やっぱり締め切り前はピリピリしてるんだ
「はいどうぞ」
「ありがとう」
「いえいえ、俺は暖めただけですから」
カチコチと時計の音
イチさんはただもくもくとビーフシチューを食べている
俺も何だか話しかけづらくてぼけっとそれを見ている
何だかとても静かだ
「あ、俺今日笹倉の部屋で寝ますから」
「え、なんで」
イチさんは酷く驚いた顔をした
それに俺は驚いた
「や、俺がいると邪魔になるかなー、と」
「邪魔じゃない」
「でも」
「ハチ公は俺といるの嫌なの?」
ぞっとする程冷たい声だった
「ち、違いますよ!めっそうもないです!!」
何か誤解をされそうだったので慌てて否定した
「ハチは俺のでしょう?」
「え…」
途端視界が変わった
一瞬何が何だか解らなくて、でもイチさん越しに天井が見えて
ああ、俺押し倒されてるんだ、と思った
…ん?
押し倒されてる?
「ええええ!?い、イチさんんん!?」
「ハチは俺のなんだから、誰かについて行くのはダメだ」
「ついて行きませんって!行きませんから!!」
だからちょっとこの体制なんですか!?
「ハチがいなくなるのは嫌だ」
「居なくなりませんよ、どこからそういう話に…」
居なくなるというか俺が追い出される立場だろうに
「てかイチさん近い!それ以上はやばいって!!」
「ん?キス出来るかな」
「出来るかなってアンタ!っ…」
本当にしやがったこの人!!
「ん、ちょっ、イチさ…ん」
何故こんな事になったのか
取り合えずどうにか止めて貰わなければ、と思った
けど、口の中にビーフシチューの味と生温い感触がして
俺は色々な意味で何も考えられなくなった
「はっ、い、イチさん」
「ハチ…」
酸素が足りなくて、何も考えられない
「眠い」
「は!?」
そう言った途端イチさんは俺に倒れこんできた
そして耳元で寝息が聞こえる
寝るの早すぎだろ!!?
「イチさん?」
「…」
「ちょっ、このまますか!?風邪引きますよ!」
しかしイチさんが目覚めることはなく
俺も身動きがとれず
さっきのは一体何だったのだろうか、と考えてみたが
すぐ横にイチさんの顔があって何だかとても恥ずかしくなってしまったので
俺も寝ることにした
だけどイチさんが重くて中々眠りにつけなかった
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