「実家に帰らせていただきます」
「はい」
「達者で」
『お盆の帰省』
大学も休みになって、笹倉にお盆はどうするんだ、と聞かれて
しばらく実家と連絡をとっていないことに気がついた
そう伝えると今すぐ電話しろと言われたので仕方なく電話したら一度ぐらい帰ってこいと言われたので
まあお盆だけでも帰るか、という事になった訳です
しかし帰ったら帰ったで郵便物は届かないわ電話は通じないわの小言を言われ
(そりゃ人の部屋を渡り歩いていたからしょうがないがそんな事を言える訳もなく)
あれこれと質問攻めにあい
ぼけっとだらっと過ごしていたら邪魔だと罵られ
別に帰らなくてもよかったんじゃね?と若干思いつつ
お土産何にしようかなと考えながら
イチさんの事を何故か考えてしまっている熱帯夜
別にイチさんは俺なんかいなくても生活していけるし
数日いなくたってどうってことないだろう
出てくるときだってそんな引きとめなかったし
なんだろう、なんか凄く悔しい感じがするのは
いつもだったら、些細な事でも介入してくる癖に今回の件に関してはそういえば珍しく何もいってこなかった
むしろ笹倉と一緒に帰省しろ、といっていた気がする
もしかして、俺が邪魔になったのかな
やっぱり出て行ったほうがいいのかな、俺
どうしよう、一旦そう思ったら帰りにくくなってしまった
さてどうしよう、とうだうだしている真夏の昼の事
両親は仕事に出かけているので家には俺一人
する事もないし、帰ろうかなとも思ったのだが、一旦帰りにくいと思ってしまったからにはその疑問が付きまとう
しかし何時までもこのままでいても何も解決しない、そんなのは分かっている
じゃあいっその事聞いてみよう、と電話をする事にした
「イチさん出るかなー」
この時間だと笹倉はギリギリ居ないと思う
イチさんは滅多な事では部屋から出てこないので少々不安だ
「…ハイ」
コールが6回ぐらい鳴った所でイチさんが電話にでた
「も、もしもし、八夜です」
「八夜?…ハチ公?」
「あ、そうです、ハイ」
もはや俺の名前は覚えていない訳ですね
「どうした?」
「いや、あの、」
どうした、と聞かれても俺帰ってもいいですか、なんて中々言い出せない
「まだ実家?」
「はい、そうです」
「ハチ…」
「どうしました?」
急にイチさんの声のトーンが下がった
何かあったのだろうか
「さみしいよ」
「うへっ」
思わず変な声が出てしまった
だってまさかそんな事言われるだなんて思ってないし
「笹倉に我慢しろって言われたけどハチ公いないとさみしい」
「わ、わかりました!すぐ帰りますから!」
「ほんと?」
「はい!」
「じゃあまってる」
「あ、お土産何がいいですか?」
「ハチ公がいい」
何この人
ツンデレか?ツンデレなのか!?
いや、イチさんてツンだったか?
そんな疑問が浮かんだが何だか胸がとてもキュンキュンしていてそれどころではなくて
とにかく早く帰らねば、と思った
「と、とにかく今からすぐ帰りますんで」
「今日つく?」
「わかんないですけど、多分着きます」
「わかった、気をつけて」
「はい!」
電話を切った後、急いで準備をし、とりあえず書置きを残して実家を飛び出した
電車の時間とかよくわからないけど、とりあえず駅に行って、列車に乗り込んだ
最寄り駅について、ひたすら走った
「た、ただいま戻りました!!」
乱暴にドアをあけて、とにかく早くイチさんに伝えたくて声を張り上げた
そしたらバタバタと足音が聞こえて
あ、イチさんだ、と思った瞬間抱きしめられていた
「おかえり、ハチ公」
「た、ただいま」
「ハチ公だぁ〜」
そんな事をいいながらぎゅうぎゅうしてくるイチさん
ああ、イチさんて犬みたいなんだ
とてつもなくなつかれた犬が駆け寄ってきて尻尾めっちゃ振ってる感じ、そうこの感じ
胸キュンの理由が判ったきがした
その後帰ってきた笹倉に呆れられた顔をされたのは言うまでもない
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