mois

































いくら近くにあったって
届かない
それは近くなんかなくて
ただただ遠いばかりだったのだ

















『mois』


























「暑ちーな」
「そろそろ夏だしね」
「こんな時間でもまだ暗くないな」
「今一番日が長い時期だしね」













ベランダに出て外の風に当たる
部屋の中は暑いから
外もあまり変わらないが風があるだけまし
そういう同居人により今日の夕飯はベランダでカレーになった











「何かベランダでカレー食べてるとキャンプ思い出すな」
「ああ、林間学校とかね、外で食べたもんねえ」
「懐かしいなー」
「バーベキューとかいいよね」
「夏休みに皆誘ってやろうぜ」
「いいねそれ」














だけどそれが実行されるかは微妙だ
いや、実行しても俺が行けるかがわからない
実は俺はもうこの同居を解消したいと思っている
別に同居人が嫌なわけじゃない
理由は言えない
だからこそそれを切り出すのは難しくて
仲違いせずには解消はできないだろうと思っている

ここは二人だと払っていくのは楽だけど
一人となるとかなり辛い
立地条件もかなりいい
何も不満はないのだ
だからこそ手放したくはないのだけれど
このままやっていける自信もないのだ























カレーを食べ終える頃、ふと空を見上げれば月がでていた



「ねえ」
「んー」
「太陽にさ、手を翳してみると血潮が見えるじゃない」
「ああ」
「何でさ、月に手を翳しても血潮は見えないんだろうね」
「んー、まあ太陽は恒星だし、月は光を反射してるだけだからじゃね?よくわからんけど」
「そっか」







月に手を翳してみる
すぐそこでつかめそうな気がした
だけどつかんでみてもそこには何もなくて
空では変わらず月が輝いていた








「こんなに近くにありそうなのにね」
「月?」
「全然届かないね」
「当たり前じゃん、相手地球外だぞ」
「うん、そうだね」












































きっと永遠に届かないのだ














































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