俺は追われていた
いや、俺だけじゃなく人間は皆追われていた
追われているというより狩られているといった方が正しいのかもしれない
一人、また一人と見知った顔が消えていく
消えた奴は2、3日経つと戻ってくる
だけどそれはもう人間なんかじゃない
動く屍、つまりゾンビとかそういう類なのかもしれない
ただ動いている、それだけだ
何故いきなりこんな事になったのか
いつからこんな事になったのか
俺は何も知らない、解からない
だからただ、逃げるだけ
『vital signs』
「辰」
「何だ」
「平がいなくなった」
「…」
「もう、俺たちだけになっちゃったよ」
「ここ、出るか」
「出てどうするよ、他の所にいったって結局いつかは」
「捕まるかもしれない、けど捕まらないかもしれないだろ」
「そうだけど」
「俺は、まだ死にたくない」
「俺だって」
「だから生きれる限り俺は生きる」
「うん」
死にたくない
それは俺も同じ
だけど、いつ狩られるかわからないという恐怖は
生きてる心地がしない
「徹」
「ん?」
「ヤろうか」
「は?こんな時に?」
「こんな時だからこそ、だよ」
「えー」
親友が消えたってのに
こんな事をしていていいのだろうか
だけど、何をしてたってあいつが戻ってくるわけじゃない
なら、一緒か
そう思うと辰の手を振りほどくことができなくなった
「んっ」
「徹…」
「な、に…」
「熱い」
「ん…」
ああ、熱いよ
ちゃんと感じてるよ
「俺…達、ちゃん…と、っ生きてる」
「っ…ああ」
次の日、辰が消えた
いつ消えたのか、起きたらもう居なかった
次の日、平が戻ってきた
話かけても何の反応も示させない
平はただそこにいた
俺は耐えれなくなって平の側を離れた
もう一人になってしまったのならどこにいても一緒だ
一人で移動するのは怖かった
生きた心地がしない、だけど
そう思えることが生きてる証
大丈夫、俺はまだ生きてる
次の日
俺の前に辰が戻ってきた
移動したのに意味がない
何で、俺の前に戻ってくるんだよ
話しかけても触っても何の反応も示さないただの身体
その肉体には温度がない
だけど俺はその身体の手を握ってただ寄り添っていた
ずっと触れていたら体温が移ればいいのに
そんな幻想を思い浮かべながら
次の日、
俺の左手は冷え切っていた
それでも俺は手を離すことができなかった
次の日
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