higurashi






























縁側に寝転んで

ヒグラシの鳴き声を聴いて

涼しい風を受けて

右手は君と繋がっていて

掌はじっとりしているのに繋がったままで

そんな時間を過ごすのが好きだった






















『higurashi』























「暑いね」
「今年は残暑が厳しいようだからね」
「あーあー今年も夏休みが終わっちまったなー」
「宿題ちゃんとやった?」
「何言ってんの和さん、まだ授業始まるまで数日あるんだよ」
「あ、ギリギリまでやらないんだ」
「常識ですー」
「まあ俺もそうだったけどね」







そして結局間に合わず提出しないパターンが多かったなあと思い出す
きっと良もそうなるんだろうなあと思うと笑みが零れた






「何々、なんか面白かった?今のやりとり」
「いや、学生の考える事っていつになっても変わらないんだなあと思って」
「何、和さんもギリギリ派だったの?」
「そう、それで結局出さないんだよね」
「うわーよくそれで教師になれたね!」
「酷いなあ」















そう、こんな僕でも教師なんです
そして隣に座るこの青年(というにはまだ若い)は昔の教え子だったりするのである
まあそれ以前に親戚でもあるのだけれど

三年前、祖父母が亡くなって、古い家は僕は一人になった
その頃ちょうど高校入試を終えて、家から何時間もかかる高校へと入学を決めた良
中学を卒業すれば教師と生徒ではなく、只の親戚となる
だから良を置いてやってくれないか、そう良の両親から言われた
確かにこの家からだと高校は自転車でいける距離だから
別に僕は良さえよければそれでよかったので承諾した
それ以来良と僕の二人暮らしは続いている










「ねえ、和さん」
「ん?」
「ちゅーしよ」
「良は駄目っていってもするだろう?」
「当たり」




そういうと良が被さってきた
軽く重なる唇






この三年間で僕らは只の親戚ではなくなってしまった
良もかわいらしい中学時代からちょっと大人っぽくなった(でもまだ高校生だけれど)
多感なお年頃の良は度々こういうことをするようになった
何故それが僕に対してというのは解からないけれど
多分思春期にありがちなものだと思う、大学生になって社会にでればきっと女の子を好きになるだろう
元々僕はどっちもいけるから何の抵抗もなかったのだけれど
最近ちょっとしつこくなってきたかな、とは思っていた
一線を越えてはいけない、戻れなくなってしまうから
















「ね、和さん」
「ん」
「俺、高校最後の夏休みなんだ」
「もうそんな歳か」
「大きくなったでしょ」
「そうだね、態度も身体もでかくなったね」
「一言余計だよ」
「ふふ」








こうやってたわいない会話をして
流れるように過ぎる日々が好きだった











「和さん、俺、和さんのこと好きだよ」
「うん、俺も好きだよ」
「そうじゃなくて」
「ん?」
「一人の男として好きなの」
「ああ、それはきっとね」
「勘違いじゃないからね!好きでもない人となんかキスしないから」
「えーと」
「俺、まだ子供だけど本気だから」
「うん、ありがとう」
「それはどっちの意味なの?」
「さあ、どうだろう」
「大人って卑怯だ」
「そうだよ」









本気になってしまって
後でごめんなさいってなるのが怖いから
曖昧な返事をしてしまう
僕だって誰とでもいいって訳じゃないのだから
君と一緒にいたいのだから












「ねえ、じゃあ俺に思い出ちょうだいよ」
「思い出?」
「うん、明日から新学期だから」
「何?」
「俺、和さんを抱きたい」




























何で年上の僕が抱かれなくちゃいけないんだろうとか
そもそもやり方知ってるのかとか
そんな事を思う前に

誰かを抱きたいなんていう良を見て

男になったんだなあとぼんやり思った


































「中、入ろうか」


































縁側に寝転んで






ヒグラシの鳴き声を聴いて





涼しい風を受けて









君とつながっている右手に汗をかいて










たわいのない会話をして過ごす夏の夕暮れ






































そんな時間が好きだった
































































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