perfume




































金木犀の香りのする貴方に恋をした





























『perfume』



















ここは私立の男子校
照玉高校という、が、秋になるとでてくるあれではない、一応
突然だが俺は恋をした
男子校なので相手は例によって男だ
というか俺は元々そっちなんだ
だけどその人は生徒ではなく、先生、しかも美術の講師で非常勤の先生だった
校舎から少し外れた自販機の側のベンチに座って
煙草をふかしている先生をよく見かける
そこは保健室に通じる通路に近くて
先生は授業がないときはそこにいるか保健室にいるかだった















「やべえ、俺やばい絶対やばい」
「何がだ」
「春崎先生、超かっけえ」
「またそれか、お前もいい加減諦めろって」
「今日朝会ったんだってば、あいさつしたら返してくれた!」
「そりゃあれでも一応先生だからなあ」




あれでも、というのは件の春崎先生はかなりの不良教師だからなのだ
かっこうは普通のTシャツにジーパン
煙草だって普通に吸ってるし
態度も不真面目、やる気なし、毎日適当に生きてますっていう感じがする
それでもかっこいいし、大人のオスっていう感じが俺はたまらなく好きだ
多分先生は遊び人だと思う、悪い男の見本だと生徒の間では言われている




「くっそー、早く明日の美術の時間にならねえかな」
「お前は単純でいいね」
「うるせ」
「でも春崎って2年の先輩とできてんだろ?」
「ただの噂だろ?」
「でも火の無いところに煙はたたないっていうし、その先輩停学くらったらしいじゃん?」
「それだってその先輩が悪いって聞いたぞ、保健室で先生殴ったって」
「そんなん春崎が手ぇだしたんじゃねえの?」
「うっ…た、たとえそうだとしても俺は先生のことが好きなの!!」








そりゃ先生はかっこいい
女にだってモテるだろうし、俺なんか相手にしてくれないだろう
だけど好きになるのは勝手だろう












「何お前、春崎のこと好きなの?」









突然話しかけてきたのは同じクラスの椿屋だった
こいつは確かバスケ部の幽霊部員で
モテ男で、遊びまわっているらしい







「な、なんだよ、悪いか」
「悪いね、そーとー悪い、あんな奴やめとけ」
「何椿屋、春崎に怨みでもあんの?」
「あるある、あいつすっげえ最低だから、遊ばれてポイだぞきっと」
「…それでもいいかも」
「わー、まじかこいつ」
「そーとーなんね、君」
「俺、先生になら抱かれてもいいもん」
「愛がなくても?」
「うん」
「やめとけ、すげえ虚しくなるぞ」
「さすが椿屋、経験者?」
「さあどおでしょう?」





キーンコーン







「あ、チャイム」
「んじゃ、本当にあいつはやめとけよ」
「へー」





そういうと椿屋は席へ戻っていった
そんなに先生に怨みがあるんだろうか?
っていうか椿屋は俺が男が好きっていってんのに全然引いてなかったな
まあ多いみたいだから特に珍しくもないのだろうが





「そんなに酷い男なのかなあ?」
「話を聞く限りそうなんじゃね?やめとけよ」
「でもそう簡単に好きじゃなくなれないよ」
「はいはい、もう勝手にしろ」






















この日は先生の姿を見ることができず、そのまま俺は下校した






































「あふー、最近寒くなってきたな」



ちょっと前まで残暑が厳しいといって暑かったのに
もう世間は秋だ
あ!!
目の前に見えるは先生ではないか!
これは朝からラッキーだ
しかも今日は美術の授業もあるし





「春崎先生!!」




呼んだら振り向いてくれた




「おはようございます!!」
「ん、はよ」





だるそうなその声がいちいちツボだ






















「聞いてくれ、俺また朝から先生と喋っちゃった」
「あーよかったな、所で今日の美術は文化祭準備でないそうだ」
「まじで!?」
「まじで」





なっ、それだけが楽しみで今日学校にきたのに!!
そんなのってねえよ!
































「あ、絵の具切れた」
「はいはーい!俺美術室に絵の具とりにいってくるー!!」
「下心見え見えだなお前」
「うっせ」
「あ、俺もいくー」
「椿屋!?」
「ちょっとサボらせて」
「了解」







本当ならばいつもは美術の時間
何をするでもなくただ先生を眺めていられたはずなのに
もしかしたら美術室にいるかもしれない
そんな期待をこめて美術室へと向かう







「あ、その前にちっょと寄ってっていい?」
「どこ?」
「先輩んとこ」









向かった先は2年の教室だった










「ちーっすシロ先輩」
「あ、椿屋残念、柏倉なら今でてった所だよ」
「まじすかー、うわータイミング悪っ」
「椿屋!!お前いい加減部活でろよー」
「うわ宮さん、今は勘弁してください、それより先輩どこいったんですか?」
「お前も大概自己中だよな、柏倉なら美術室に絵の具とりにいったぞ」
「まじ?」






どうやら椿屋はかしわくらせんぱいという人に会いたかったらしい
美術室なら行き先一緒じゃないか






「つかシロ先輩なんかいい匂いしません?」
「あ、するする、柏倉もしてた」
「ああ、寮の窓の外すぐに金木犀があるから匂いが移ったんじゃない?」
「へー」




















そして美術室についた






ガラッ








開けても誰もいなかった、先生もいない
やっぱり授業がないから保健室かあのベンチにいるんだろうか
ちょっとショック










「絵の具って何処にあるんだっけ」
「準備室の中だと思う」








準備室は小さな部屋で
美術室からでないと入れないのだ









ガタガタッ



ドバンッ










その準備室から突然人がでてきた
そして仄かに金木犀のかほり










「あ、柏倉先輩じゃないっすかー」
「げ、何でお前がここにいる!!」
「何でって絵の具がきれたんで取りにきたんですよー」




いや、本当はそれを利用したサボりですよ





「いっとくけど絵の具もうないぞ、ほとんどのクラスが持ってってる」
「まじっすか、じゃあ先輩が持ってるその絵の具貸して下さいよ」
「これは俺が自分のクラスの為に借りたんだが?」
「ええ、だからそれをかわいい後輩に譲ってください」
「お前のどこがかわいい後輩だ」





こうしてみてると部活とクラスとじゃあ椿屋は随分と性格が違うみたいだ
クラスじゃあ割りとクールな感じなのに










「それは柏倉に貸したんだからお前には貸さないよ」



準備室からもう一人でできた
それは春崎先生だった
俺は一人で有頂天になっていたが
何故か先輩と椿屋からは笑みが消えていた
もっとも先輩は初めから笑っちゃいなかったが






「ちゃんと返しに来いよ」









ガラッ









先輩は先生に返事をせず、黙ってでていってしまった
な、何この重苦しい空気…
ええい、この空気を払拭できるのは(多分)俺しかいない!!











「せんせー、本当にもう絵の具ないんですか?」
「うん、ないごめんね」
「あ、いえ」





瞬間微かに香る金木犀の香り
あれ、これって












「春崎先生」
「ん?」
「金木犀の香水でもつけてんすか?」



椿屋が聞く





「ああ、移っちゃったかな」







先生はニヤリと笑う












先輩は確かに金木犀の香りがしていたけれど
それは仄かに香る程度で
それでも移るって事は、それだけ密着していたって事?
それって







(火の無いところに煙はたたないって)














どういうこと



































(だけどそれでも)





















































僕は貴方に恋をしているのです
















































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