tryst
























なんだか酷く疲れてしまって
一人で静かな場所に居たいなと思い
昼休みの喧騒を避けて避けて
たどり着いた先は移動教室ばかりある一番端の校舎の非常階段だった
校舎の隣には雑木林が広がっているので人が来る事はなかろう
いい場所を見つけた、
そんな同じ毎日にほんの少しの変化を見つけたその日に
俺は百谷と知り合った


















『tryst』


















「…」
「…」





静かな空間にまったりしすぎてぼけっとしていたらいきなり非常階段に通じる扉が開き
そこから現れたのは同じクラスの一度も喋った事もないような不良の方でした

幸いなことにグループではなく、一人だけだったのでそこまでおびえる事はなかったけれども
それでもちょっと怖いなあと思いつつ、気まずさを感じている次第でござります。
ど、どうしよう。





「もしかしてここって百谷の場所だったりした?そしたら俺別の所にいくよ、ごめんな」
「別に、校舎なんだから好きなところにいれば?」
「あ、そう?はは、ありがと」




適当に返事をしてしまったがこれはこのままここにいてもいいということなんだよな?
それ必然的に百谷と二人きりでここにいるという事なんだな?
ありがとうといってしまった手前中々移動しずらいぞ、俺。




なんて悶々と考えているうちに百谷は階段の踊り場に横になって眠りだした
こんな所で横になったら汚れるのに、なんて思ったり
でもイヤホンしながら寝てるから気まずい感じにならなくてよかった
音楽聴いているのなら話しかける必要ないし
このままぼけっと時間がくるまでゆっくりしていよう
今更移動するのも面倒だし











そしてそのままぼけっとしていたら予鈴が鳴った
ああ、教室にもどらなくては、あの喧騒の中に戻らなくては
横を見ると百谷はぴくりとも動かなかった
次の授業は数学だったか、担当教師を思い出して教室に戻るのが更に億劫になった
いつもいつも当てられるのだ、偶には他の生徒も当てればいいのにと思う
だがしかし皆授業なんて聞いてないんだろうな、教師もバカにされるのが嫌だから自分を当てるのだろう
そんなちっぽけなプライドの為に利用されるなんて悲しくなってくる

百谷はこのままサボるのだろうか
いちいち確認なんてしたことないから判らないが
そういえばあまり教室にいるのを見ないかもしれない
たまに取り巻きっぽいのと一緒にいるのを見るけれど
大体寝てるしな
そういえば取り巻きがいない
百谷も一人になりたかったのだろうか
なんて思ったら勝手に親近感を抱いてしまった




「戻んねーの」
「へ?」



それが百谷からの問いかけだと気がつくのに暫しかかった



「本鈴鳴ったぞ」
「あれ、鳴ってた?」


全然気がつかなかった
そんだけ内に篭っていたのだろうか俺は


「優等生なんだろ」
「ま、そうなんだけどね」
「いいんじゃねーの」
「何が?」
「少しくらい、不真面目になっても」



えーと、




「慰めてくれてるの?」
「無理して嫌な事し続けなくてもいいんじゃねーか、的な」
「あー、うん、ありがとう」




別に、嫌なわけではないのだけれども
たまに疲れるぐらいで
まあでもありがたくその助言をいただくことにした




「そいえば百谷の取り巻きは?」
「取り巻き?」
「うん、何か近くにいつも誰かいるじゃん」

不良っぽい奴、とまではさすがに言えなかった

「別に、勝手についてくるだけだし」
「そっか、」





なんだか思っていた百谷と実際の百谷は違うみたいだ
勝手に悪い印象を持っていただけなのか








「なあ、またここに来てもいいかな」
「どこにいてもいいだろ」
「百谷は来る?」
「ああ」














その日から、俺と百谷の密かな交流が始まった






何をするでもないけれど、たまに非常階段へ行けば百谷は大概いる
弁当を食べたり、ぼけっとしたり
たまに音楽聞かせてもらったり
百谷と過ごす時間は酷く心地がよかった































「優等生テスト見せてよ」



ある時突然百谷の取り巻きの一人に声をかけられた



「何のテスト?」
「今度の期末の、落とすと俺やべーの」
「それカンニングっていうんじゃないの?」
「黙ってりゃバレねーって」


無理だろう、と一瞥しそうになったが少し抑える


「勉強の仕方ならいつでも教えれるけど、それは出来ないよ」

大体そんな事やったら連帯責任だろう
こんな奴の為に今までを棒に振るのは嫌だ


「なんだよ使えねー奴」








これはだいぶきました








「別にお前に使われる為にいる訳じゃないから」

「あん?」


しまったと思った、が、声に出してしまったものは取り返しがつかない
予想通り他の取り巻きにも囲まれ人気のない非常階段下に連れて行かれてしまった




ちょっとばかし非常階段に百谷がいないかなあと期待をしたが
そういえば朝から来ていなかった事を思い出した
まあ自分で蒔いた種は自分でどうにかしなきゃだ








「ちょっと頭がいいからって調子乗ってんなよ」
「痛い目見るか、俺らのパシリになるか選ばせてやるよ」

頭が痛い、いまどきこんな事本気で言ってるのだろうか


「何で同じ歳の奴の下につかなきゃいけないのさ、しかも学生なのに」
「ああん?」
「誰が俺よりお前等が偉いって決めた?勉強しか能のない学生なのにその勉強も出来ないで何が偉いって?」
「んだとこのやろっ!!」


少し煽ったら思った通りに殴りかかってきた
単純すぎて呆れてしまう
でもごめんなさい、優等生だからって軟弱な俺ではないのです
自分の性分を解っている俺は昔からこんな場面によく陥る
だから多少の護身術は習っているのです
なので簡単にやられるつもりはないのです





「いでっ」
「なんだこいつ!!」





案の定、少し反撃されただけで戸惑う取り巻き達
しかし実際これからどうやってこの場をやり過ごすかまでは頭が回っていない俺
うん、どうしようか





「ちょこまかすんなっ!」
「うわっ」




足を引っ掛けられて、倒れた
すかさず取り巻きたちに取り押さえられてしまった
ああ、ここまでだな、しまった
俺は鈍い痛みを覚悟した














「何してんの」


















しかし痛みはこなかった
代わりに聞いた事のある声が聞こえた



「もも、や」






まさかの百谷だった
なんだそれ、タイミング良過ぎだろ


















「ねえ、何してんのって聞いてんだけど」
「も、百谷さん」
「こいつ、生意気で」
「ちょっとシメてた所っす」
「ふーん、そいつ俺のダチだけど」
















百谷が俺の事を友達だといってくれた
嘘だとしても、少し嬉しかった


逆にその言葉を聞いた取り巻き達は慌てふためき
俺を解放すると慌ててどこかへいってしまった















「百谷今日休みじゃなかったの?」
「開口一番それかよ」
「あ、助けてくれてありがとう」
「いや、別になんでもねーけど」
「何かタイミングがドンピシャ過ぎて惚れる所だったよ」

「じゃあ惚れとけよ」




ニヤリとした顔でそんな事いわれたら、本気で惚れそうになってしまった
いかんいかん












そしてその後俺達はいつもの非常階段へと移動した

もう授業なんてどうでもよくなっていた










「最近優等生じゃねーのな、お前」
「百谷の所為だよ」
「人の所為にしてんじゃねーよ」


そういいながら楽しそうに笑う百谷
そういうのが原因だと思うんだけどな
なんていうの、野良猫を手懐けたような満足感?
いや、ちょっと違うな、うん、わかんない



「百谷って不良っぽくないよね」
「不良って、どんなんよ」
「なんかすぐ喧嘩して、煙草吸って酒飲んでつるんでゲーセンなイメージ」
「テレビか漫画の見すぎじゃね?今時喧嘩はねーだろ」
「そうなのかな?」

不良の世界はよくわからないけれど
でも百谷と喋る様になって今まで抱いていた不良のイメージとは真反対だと気づいた
喧嘩はしないようだし(但し周りが勝手に恐れをなす)煙草とお酒もしないそうだ
ただあまり喋らないし対応は冷たい、しかし慣れると結構喋ってくれる、と思う



「百谷って不良っていうか、冷めてる感じだよね」
「本人目の前にしてよく言うなお前」
「や、いい意味で、っていうか大人びてるっていうか」
「そうか?」
「達観しているのか飄々としているのか何か、柳のような」
「何かよくわからなくなってきてるぞ」
「でもたまに冗談言ったりして笑ってるのを見ると歳相応だな、とか思うよ」
「お前の方こそ歳幾つだよ」




最近百谷はよく笑うようになってきた
それが嬉しくて、楽しくて
今まで学校に通ってきて今が一番楽しいと感じていた
多分、それだけ百谷の隣は居心地がいいのだろう
別にクラスの皆に対して作っているわけではないのだが
どうしても話していると面倒くさくなってしまうのでさらっと流してしまいがちになってしまう
百谷は適度な距離を保ってくれるし
嫌な事は嫌だといってくれるからいちいち気にしなくていい
顔色を伺わなくてもいいというのだろうか









「百谷ってモテそうだよね」
「何急に」
「いや、ふと思ったから言ってみただけ」
「別に、誰も寄ってこねーよ」
「本当に?」
「俺に寄ってくる物好きなんてお前ぐらいだろ」
































不覚にも、その言葉にドキっときてしまった俺はこれからどうすればいいのでしょうか































(男相手に思う感情じゃないだろこれ)











































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tryst=(特に恋人同士の)会合[あいびき]の約束、(約束の)会合, あいびき、会合[あいびき]の場所



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