転入生が現れた。
『嵐を呼ぶ転入生』
「なーなー聞いた?」
「転入生の事か?」
「そーそー、どこのクラスに入るんかな」
「Dじゃないか?八田と同じクラスだっつってたから」
「なんだ、つまんね」
「おい」
なんだか変な時期に編入生が現れた
まあクラスも違うし、自分との接点はまずないだろうし
正直どうでもよかった
「高畑ー」
「何?」
「八田」
クラスメイトが廊下を指差している
なるほど廊下には八田がいた
また辞書でも貸してくれというのだろう
勝手に持っていけばいいのに
「何?辞書なら勝手に」
持っていけば…と続けようとしたら何故か手を出された
なんだ、握手でも求めているようだ
返事を求めても何も返してこないし
手はそのままだし
よくわからないがとりあえず握手をしてみた
「国語、教科書貸して」
「え?別にいいけど」
いいけども、この握手は何なんだ、全然解かれないのだけれども
「は、八田?」
「よし!充電した!」
「は?」
「ありがと、教科書借りてくな!」
「あ、うん」
「じゃっ!」
そうして八田は去っていった
何なんだ、まったくわけが判らない
というか校内であそこまで接触を持ってくるなんて珍しい
何かあったか?
「あ、高畑、今八田来てた?」
「ああ、教科書もってったけど」
「さっきさ、転入生見にいってみたんだけど」
こいつはいつの間にいってきたのか
つかミーハーだなおい
「八田にすげー迫ってるらしいよ」
…はい?
「その、転入生が?」
「うん、女子がすげー怒ってた」
「そりゃあ、大変だな、てか凄い子だな」
「それがさ、男なんだって」
「え?」
「まあ顔は悪くないけど男はないな」
「そ、それは災難だな」
だからさっき様子が変だったのか?
でも充電って何だそれ
「さっき八田なんかいってなかった?」
「いや、逆に何も、疲れてたんかな」
「そうかも、モテる男はつらいね」
八田は顔よし性格よしの人気者だ
だからおのずとモテる
しかも少し前まで男子校だったなごりも多少あり
男女構わずモテるのだ
女子は互いに牽制し合っているので表面上は(あくまでも表面上)問題ない
男子も多少押しが強い者はいたらしいが
どうにかやり過ごしたらしい
まあ、どれも本人談なので真偽の程は定かではないが
基本男女どちらにも一線を引いているスタンスは変わらないので
嘘ではないと思う
八田は己の状況を理解しているので、特別を作らないのだ
それはそれで、少し、同情してしまう
その日寮へ戻ると部屋には既に八田が戻っていた
いつもは部活やら委員やらバイトやらで俺より早いことはめったにないのに
しかも奴は何故か俺のベッドにうつ伏せになって眠っていた
おいおい、人の場所とってんじゃねえよ
「八田」
声をかけてみた
動く気配はない
昼間の変な握手の事もあり、少し心配になった
顔を覗き込んで見る
相変わらずカッコイイなちくしょう
「むかつく」
衝動的な苛立ちから八田の頭をぐしゃりとかき回してしまった
しかしその髪までさらさらで余計にむかついてしまった
何なんだこの男は、死角なしかこのやろう
「八田ー!!いる?」
突然声がしてびっくりした
どうやら八田にお客さんのようだ
しかし声の主は返事の前にドアノブを開けようとガチャガチャしている
危ない奴だな、勝手に人の部屋開けようとしてんじゃねえよ
カギをかけていてよかった、とほっとした
「あれー?いないの?」
変わらず声の主はガチャガチャしているので
いい加減出たほうがいいかと思い立ち上がろうとした所突然腕を掴まれてしまった
腕を見れば八田が目を覚ましていて、指を口の前に一本立てて静かに、のジェスチャー
声の主に会いたくないのかと理解して多分あれが件の転入生なのだろうと思った
しばらくして、声の主は去ったようだった
「あー、びっくりした」
「いや、びっくりしたの俺の方だし」
「ごめんな」
「いや、別に何もないし大丈夫だけど」
「ごめんついでに、ちょっと高畑ちゅーしてよ」
「は!?」
どういうことだ、全然前後がつながってねーだろおい
てかなんで俺がお前にキスしなきゃならんのだ
思わず逃げようとしたら腕を掴まれたままな事を忘れていて
逆にそのままひっぱられて八田に抱き込まれてしまった
「あー、やっぱり高畑落ち着くわ」
「な、なんだよ昼といいお前変だぞ」
「ちょっと疲れただけだよ、高畑補給してるだけだから」
「補給って」
「今日さ、転入生来たじゃない」
八田は勝手に話をし出してしまった
これは聞いてもらいたいのか
「俺一応委員長だから面倒見るじゃない、そしたらなんか懐かれちゃってちゅーされそうになっちゃったんだよね」
まてまて、さらっと言っているが
最後変な単語はいってなかったか?
「は!?」
「やっぱり驚くよね」
「いやそりゃ普通は、てかされたのか」
「そこは高畑の為に死守しましたよ」
一言多いんだよこいつは
「じゃあいいじゃねーか」
「よくないんだよー、傷ついたんだよ俺」
「あっそ」
「あ、冷たい」
「もういいだろ?放せよ」
「やだー、高畑からちゅーしてくれるまで放さない」
何かとてつもなく面倒くさい奴になっている
絡んでくるときは大体面倒くさいけど今日は何時もの倍だな
しかもとてつもなくイラっとする
少しでもかっこいいと思った自分に謝れ
全然かっこよくねーよちきしょー
「高畑?」
「お前、ちょっとだまれ」
「ん、」
少しだけ交わる温もり
呆けた顔の八田
あ、この顔の八田は全然かっこよくない
「さっさと放せよ」
「…高畑が男らしい」
「どういう意味だよ!」
まるで俺がいつも男らしくないみたいな言い方しやがって
いつまでもお前にやり込められてばかりと思うなよ
「なー、せっかくだからもっとディープなのしてよ」
「出来るか!!」
だから一言多いんだっつの
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