『3月9日』
高校最後の一大イベント、それは卒業式
そんなに愛着がある訳ではない
だけど、未練は、ある
「おいおい卒業式終わっちゃったよどうするよ」
「どうするって何がだよ」
「もう高校生じゃないのよやばくね」
「何がヤバいのかわかんねーよ」
卒業式が終わり、担任がくるまでの空き時間
至って普通の教室、ざわめき、それも今日まで
今まで普通だった事が普通じゃなくなる
それは何かと言われれば、別れだろう
「もうこうやってだらだらする事もないんだぜ」
「いや、どこでも出来るよ」
「何だよお前俺が感傷に浸ってるのによー邪魔すんなよな」
「察しが悪くてさーせん」
ものすごく軽く言われても察せねーっての
「あ、ちょっと俺便所」
「いってら」
うるさい奴がいなくなった、
俺の席は教室の一番隅なのでぼーっとしているだけでクラスが見渡せる
この景色ともお別れか、なんて思いながらぼーっとしている
ああ、これが感傷に浸っているって事なんか
そしてついつい見てしまう俺の席から一番遠い廊下側の席の一番前にいるクラスメイト
ああ、とうとう一度も喋る事もなくこの日を迎えてしまったんだなあと
思って後悔、
きっとこの先会う事もなく、でも想いは吐き出す事もなく、俺の中で古傷のように疼くのだろう
最後の機会なんだから言ってしまえばいいと、思うがそれで終わりになるのも嫌で
そもそもこの機会に話せるのならば今までどうにか接触をしていた訳で
そんな自問自答を繰り返していたらうるさい奴が戻って来た、と同時に先生がやってきた
そして先生のお話、卒業証書授与、最後のお別れ
女子はアルバムに寄せ書きを必死で書き合っている
「帰ろーぜー、そんでカラオケいこーぜ」
「お前クラスメイトとの最後の団欒しなくていいの」
「べっつにー、特に親しい訳じゃねーし、何お前最後だからって何かしてくの?」
お前そんなキャラだったっけ、とか聞いてきやがる、別にしねーよ
どうせクラスメイトと殆どしゃべってねーよ
「いや、別に、かえろっか」
「だからそういってんじゃん」
いつまでもここにいたってする事もないし、悶々とするだけだし
それでもやっぱり未練があるので、帰り際ちらりと見てしまうのです、廊下側の一番前の席を
「っ」
そしたらばっちり目が合ってしまったのです、初めての事で、突然の事で、びっくりしてしまって
何か言うチャンスだと思っても、何もでてこなくて
「もう帰んの?」
「え、うん」
「俺らカラオケいくんよ」
「そか、じゃあなー」
「おー」
「ばいばーい」
びっくりした
ぴっくりした、びっくりした
初めて喋ったのが別れの挨拶なんて嬉しいやら悲しいやらだ
「どしたの」
「何が」
「顔赤いけど」
「まじで」
「まじで」
「・・・」
「・・・」
「急に話しかけられてびびったな」
「そーいや喋った事ないかも」
「皆残ってなんかやってくのかね」
「戻る?」
「戻らねーよ、なんでだよ」
「未練でもあるのかと思って」
「・・・」
「・・・」
「ねーよ」
「んじゃカラオケいくべー」
「おう」
きっとこの想いはいつまでも俺の心に住み着いて忘れた頃に染みのように浮き出て来るのだろう
その時誰かが隣にいてくれればいいのに
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お友達はきっと気がついているけど自分からは聞かなくていいたくなれば言ってくれればいいのにとか思っているかもしれない
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