ツンデレーション





















意地をはっている訳ではない
ただ、恥ずかしいのだ

それが所謂





『ツンデレーション』










「高畑ー、何か呼ばれてるぞー」
「誰?」
「知らん」



クラスメイトに呼ばれて廊下に出た俺の前にいたのは知らない男だった



「君が高畑君?」
「そうですけど」

誰だこいつ、全然見た事ないぞ
そもそもクラスメイト以外はほんのりしか判らんけどな
でも何て言うか結構なイケメンというか派手な顔というか目立つというか
多分一度見たら見覚えあるなあと思うぐらいの人だと思うのだが


「八田と同室なんだよね君」
「はあ、まあ」

なんだろう、凄く値踏みされている
あれか、八田ファンか、手紙渡してくれとかそんなんか

「お願いがあるんだけど、部屋、代わってくれない?」
「は!?」
「ね?いいでしょ?」
「いやいやいや、無理でしょ、何いってんのあんた!?」

寮の部屋割りは学校側が決めるもので、自分たちで勝手に変更する事はできない
それは何があっても例外はない
そんな例外があったら八田はもうちょっと楽な学生生活を送っていたはずだ

「へえ、八田と離れたくないとか?」

何言ってんのこの人、わけがわからないよ

「いやいや、そんな事俺に言われてもって感じで、先生に言った方がいいと思いますよそれ」
「先生にはもう言ったよ、無理って言われた」
「じゃあ無理ですよそれ」
「君がいいって言ったらどうにかなるかなと思って」
「いや、無理だと思います」


先生に言って駄目だったものが一生徒の一言で変わる訳ないだろうが


「そうか、ごめんね」
「はあ」



そういうとその人は去っていった
そういえば結局誰なんだあいつは

今まで八田と同室になって二年半ぐらい経つけど、あんなん言われたの初めてだなあ
なんだか俺は関心してしまった









「高畑お前何で転入生と喋ってんだよ」
「は?転入生?」

席に戻ったら友人が興奮していた

「あ、もしかして八田関係?」
「ああ、部屋代わってくれって」
「無理だろ」
「うん、そう言った、ってか転入生ってもしかしてあれか、前にお前が見に行った」
「そう、八田にすげー迫ってるって奴、まだ諦めてなかったんだなー」
「行動力凄いな」
「やっぱ外部の奴だと暗黙の了解とか関係ないもんな」
「あー、抜け駆け禁止ってやつ?」
「そうそう、女子も結構あの転入生に仕掛けてるらしいけど意に介さないみたいでさ」
「女子の方が怖ええよ」
「同感」





















その日の八田はいつもと同じだった

「ただいまー」
「おつかれ」

八田は基本忙しい奴だ
部活もやっているし、委員会も入っているしバイトもしている
だから寮にいる時間は実はそんなに多くない
でもそれを少ないと感じないのは距離が近いからなのかもしれない
物理的にではなく

なんて考えてしまうポエミーな俺だこと
一体どうしたっていうんだ俺

八田と同室になって結構経つ、普通は1年経ったら寮の部屋割りは変わる
しかし八田とはもう2年以上同じだ、来年変わらないとも限らない、そんな事考えた事もなかった
俺はよく知らないけれど、中学の時に八田は寮の部屋割りで色々揉めたらしいと聞いた
だから特に問題がない今、先生も特に変えたりしないだろう、と勝手に思っていた
でもそんな事ないのかもしれない

きっとあの転入生が部屋を変わってほしいとか言ったからだ
別に気にしていた訳ではないけれど、無意識で気にしていたのだろうか



「高畑さっきからどしたの」
「え」
「ぼーっと突っ立って」
「いや、別に」


八田はいつもと同じだ

転入生はまだ八田に迫っているという
だけど初日こそ変な八田だったけど、あれ以降はいつも通りだ


「八田って、まだ転入生に迫られてるの」
「何いきなり、嫉妬?」
「違う」
「即答かよ」

たまには正直になれよ〜なんて笑いながら八田は言う
あ、結局質問に答えてない

「なあ、聞いてんだけど」
「いつになく真剣だなあ」
「茶化すなよ」
「別に茶化してないけどさ、まあ、そうだねえとしか」
「今日会ったよ」
「は?何で?」
「何か部屋変わってほしいって言われた」
「無理でしょ」
「そういっといたけど」
「つーかあいつとは絶対関わんな」
「俺から関わる事はないと思うけど」

今日の事がなければ多分ずっと知らなかった人だったと思うし

「仲いいの?」
「いいもんか、朝から夕方までほとんどべったりだぜ」
「もしかして疲れてる?」
「そう思うんだったら隣座ってよ」
「なんだそれ」

といいながら座ってしまう俺なんです

「高畑さー、嫉妬してんでしょ」

言いながら八田は俺の肩に頭を乗せる
必然的に俺は動けなくなってしまった

「俺さー、中学の頃今回みたいな事結構あってさ、それが同室者だったりとかして、自分の部屋ってあんまり帰ってなかったんだよね」

「だから高畑と同室になった時も最初は警戒してたんだ」

そういえばあんまり部屋にいなかったような気がする

「だけどこの部屋が気が休まる場所だって気づいたのよ俺」
「何でかと思った、そしたらお前の隣が一番休まるんだ」
「な、」
「これってどういう意味だと思う?」

なんて事言ってんだ、馬鹿じゃないのかこいつ

「知らん」
「はは、そういうのがたまらん」
「うるせー」
「そういいながら顔赤くしてるくせに」
「してねーよ」

といいつつきっと赤いのだろう

「だからさ、この場所壊したくないしも誰にも邪魔されたくないの」

そういえば、八田が誰かを部屋に連れてくる事って今までなかった
俺も連れて来る事はなかったし、そもそも皆へたに関わらないようにしていたし
だからこの部屋は正真正銘二人だけの場所だ

「俺も、」
「ん?」
「ここが一番落ち着く」

そして一番ドキドキする
しかし絶対にその言葉は言わない
ものすごい笑顔でこっちを見てくる男の顔がさらに笑顔になるのが目に見えてるからだ


「もーホントたまらんね高畑」
「うるせー」




その嬉しそうな顔が俺にはたまらない









なんて言ってやるものか

























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