scapegoat













「このままでは村が全滅してしまうんじゃ」

(それがどうした)





「お前一人で皆の命が助かるんだ」

(なんで俺なんだ)







「わしらを助けてくれ」


(お前らなんて死ねばいい)


















『scapegoat』
















気がついたら森の中にいた
四方に松明を焚き縄で囲んである
その真ん中に転がされていた

身体を動かしてみたが軋んだだけだった
どうやら手足を縛られているようだ
こんなんじゃ吸血鬼が来る前に狼に喰われるのがオチだ
それはそれでいい気がした
生贄がなければ村を襲いにいくだろう
あんな奴ら死ねばいい
助ける恩も義理もない







バサッ








ふと頭上から羽音が聞こえた
梟かと思ったがそれにしては大きい気がする









「あら、こんな所に餌が一匹」



声は闇から聞こえた
すると闇が膨らんで人の形になった





「お前吸血鬼か」
「へえ、そう呼ばれてるんだ俺」
「昨日この近くの村を襲っただろう」
「うん」
「俺はその村からの生贄だ」
「あらまあ、そんなの誰も頼んでないのに」
「馬鹿だからな、一人差し出せば済むと思ってるんだ」




そんな簡単な生き物じゃないだろうに




「で、お前をいただく代わりに村を襲うなって訳?」
「別に、好きにすればいい」
「君、生贄なんでしょう」
「あんな奴ら知ったこっちゃない、自分達の都合で村から追い出しておいて
自分の身が危なくなったら代わりに死ねだなんて都合良すぎる」
「何、村八分だったの君」
「…」
「まあわかんないでもないなあ、だって君凄くいい匂いがするもの」
「?」
「俺達じゃなくても分かるんだろうね、本能的にさ」
「何」
「たまにいるんだよお前みたいな人間、もっとも俺は初めてだけど」
「ちょっ、何、…ぅわっ」




首筋を舐められた

と同時に酷い痛みが走った















































次に気がついた時は天井があった

俺はまだ生きているのだろうか










「あ、起きたね」

「…っ」

身体を起こそうとしたら酷い目眩がした

「ああ、あんまり動かない方がいいよ結構喰っちゃったから」
「喰った…」
「うん、君の血ね」



そこで完璧に覚醒した
そうだ俺は生贄として吸血鬼に差し出されたんだ

「何で生きてるんだ…」


咄嗟に首筋に手をあててみた
そこには二つの小さな傷痕があった





「何、死にたかったの?」
「別に…」

死にたい訳じゃなかったが
自分が死ぬのだとばかり思っていたから
少々驚いているだけだ






「死なせないよ」

「…は?」
「君がいくら死にたくなっても死なせやしないよ」
「何…それ」
「君は死ぬまで俺の餌なんだから」








なんだそれ、矛盾してるじゃないか







「俺は、吸血鬼になったのか?」
「いんや、人間のままよ?同属にしちゃったら不味くなるもの」
「じゃあ俺は死なない程度に生かされて死ぬまでお前の餌でそれはお前に飼われるということか?」
「理解がお速いようで」
「冗談じゃない」
「そう?結構いい待遇だと思うよ、働かなくていいし、俺に奉仕してればいいだけだし」
「…」
「何、今までとかわんないよきっと」
「今までと…」
「結局お前はどこいっても村八分にされるだけだ、ならここにいろ俺がちゃんと人兼餌として扱ってやるよ」











それはそうなんだろう
村の人間はよそ者を嫌う
今更他の土地に移り住むこともではないだろう
ましてやあの村になんもどれはしない
だからって化け物に飼われろというのか
そこまでして生きたいのか俺は


















「ああ、因みに自殺とか考えないようにね」



頭の中を見透かされたような気がしてびっくりした



「そんな事したら一生死ねない身体にしてやるよ」

ぞくり、とした
そんなの耐えられない

「もし死んだとしても、一度血を飲んだ奴なら蘇生できちゃうから」
「やめてくれ!!」




嫌だ、一生だなんて
死ねないなんて
終わりがないだなんて
それは生きながら死んでいるのと同じだ








「じゃあ、俺に逆らわないことだ」
「…」
「返事は?」

「…わかった」
「よいお返事だこと」
「っ…」











俺は何かを言い返す事ができなかった、言葉がでてこなかった
せめて、と思い睨みつけたらニヤリ、と笑われた












「あーらら、反抗的だこと、そんな目されちゃうと何かしなきゃいけないかな」
「何かって」
「お仕置き?」
「は?」



お仕置きとは?
その意味が理解できず一瞬固まった
すると影が落ちた
目の前には吸血鬼の顔があった
異様に近い、近すぎる
そして状況を把握した、俺は今圧し掛かられているらしい
吸血鬼の顔はどんどん近づいてくる
まて、何で近づいてくるんだ、おかしいじゃないか
俺は反射的に顔を仰け反らせた、すると首にチリ、と痛みが走った



「い…っ」

「さっき吸ったばっかだし、ああ、傷開いちゃったよ」




どうやら仰け反らせた拍子に首の傷口が開いてしまったらしい
開いた、という事は血がでているのか
そう思っていたらふいに首筋に生暖かい感触が触れた




「なっ、に」
「え、もったいないし、いただこうかなーと」




首筋を嘗められている
なんともいえない感触で、ぞわぞわする、気持ち悪い





「気持ち、わる…やめろ」
「嫌ですー、お仕置きだし」







くらくらする
頭がぼうっとして何も考えられなくなる







「あ、ちょっと吸いすぎたかな」









そして俺はまた気を失った



































気がつけばまた天井
首筋の痛み
覆いかぶさる影
















そしてそれは日々変わることのない日常になった



いつだったか毎日毎日よくも飽きないものだと聞いたことがある

しかし人間だって毎日毎日食事をするだろうと言われれば返す言葉もない

毎日何もせず、食事を与える為だけに食事をして、餌になって

一体俺は何なのだろう、毎日何かをする事もなく、ただ血を提供するだけの機械みたいな

これで生きているといえるのだろうか

この生活がこの先ずっと続く事を考えたらぞっとした
一生死ねないのも嫌だが、このまま生き長らえる事も同じだと思った

そう思ったら飛び出していた
自分が何処にいるのかなんて知らないが、とにかく此処を離れたかった






























森をめちゃくちゃに走って、気がついたら見慣れた景色を見つけた
多分、村が近い

今更戻る事は出来ないが、戻る場所もないが、元々村はずれにある俺の家ならば誰にも気付かれずに居れるだろうと
とりあえずの宿として使おうと向かった



しかし村は何時もとは違っていた
何だかひっそりとしている、人の気配が感じられないのだ
家畜の鳴き声も聞こえない、畑も荒れている、何かがあったのだろうか
気になって、気をつけながら村の中心部へと向かった
しかし誰とも出会う事はなかった、ここには誰もいない

ようやく民家にたどり着いた、窓から中を覗いて見ると人らしきものが倒れているのが見えた
伝染病か何かだろうか、ドアも開いていたので中に入って確かめてみようと思い足を踏み出した
しかしすぐに異変に気がついた
それはミイラの様に干からびていたのだ
そしてそれの首筋にはポッカリと二つの穴が開いていた

見つけた瞬間ぞくりとしてすぐに家を飛び出した


しかし飛び出した目の前に奴がいた








「急に居なくなるからびっくりしたよ」

吸血鬼は笑いながら言う、しかし目は笑っていなかった

「これは、お前がやったのか」
「何か問題でも?」
「っ…」
「いい気味じゃねえか、生贄差し出したって助からなかったんだ、お前だって死ねばいいって思ってたろ」


俺は何も返せなかった
確かにそう思っていたのは事実だった、


「なあ、お前もう行く所ないぞ、大人しく戻りな」
「あそこはいやだ」

生きる意味も、必要も、意志も何もない場所

「じゃあ何処ならいいんだ?」
「え」
「行きたい場所でもあるのか?」

問われて気がついた、此処ではない何処かへと思い続けたが結局行きたい場所はなく
俺の来れた場所は此処しかなかった

「お前はもう俺の傍にいるしかないんだよ」

吸血鬼はそう言いながら俺を抱きしめた





それはそれは優しい声だった

























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当然お約束でエロい事もしてますでしょうな



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