そいつは全てを忘れ
一部を除いて全てを思い出した
『reminder』
「大和、俺もう完璧だぜ」
「本当?」
「ああ、クラス全員思い出した!!」
「ならもう安心だね」
「だろ?俺もすっきりしてさあ今まで奥歯になんかはさまった感があって嫌だったんだよね」
こいつ、泰平は先日事故に遭った
幸い軽傷ですんだのだが打ち所が悪かったのか一時的な記憶喪失になってしまった
しかしそれも一時的な事なのですぐに戻った
と泰平は思っているが
奴が思いだしていない事実があるのを俺は知っている
いや、俺だけしかそれは知らない
そして泰平がそれを思いだす事もないのだと思う
「もう怪我はいいの?」
「おう、元々たいした怪我じゃないしな」
「そっか、一時はどうなる事かと思ったけど」
「その節はお世話かけました」
「本当だよ、見舞いにいったら、お前誰?だもんな」
「今はもうちゃんと判るぞ!大和は俺の幼なじみ!!もう忘れねーぞ」
「ありがと」
そう笑ってみせたけど
内心では泣きそうだった
たしかに俺と泰平は幼なじみだ、だけどそれだけじゃなかったんだ
俺にとって泰平は大切な人間で
初めての親友で
初めての男だった
俺達は付き合っていたんだ男同士だけど
ただの慰め合いじゃなくて、本気だったんだ
でもそれも全て消えてしまった
泰平にとって俺はただの幼なじみでしかないのだ
泰平の近くにいる限り俺はこいつの事を忘れる事ができない
これから先こいつに彼女が出来ても黙って見ているしかない
だって、もし想いを告げても前のように受け入れてくれるとは限らない
なあ泰平、お前全部思い出してなんかねーよ、馬鹿じゃないか
忘れた事すら忘れたくせに、何を忘れたかも忘れたくせに、全部なんてわかる訳ないじゃないか
お前のその自信はどこからくるんだよ、勝手にすっきりしてんじゃねえよ
「大和?どした?」
「ん、なんでもない」
思い出してもいないのに、忘れないなんていうな
「そいや今日って体育あったっけ」
「うん、あるよ」
「やべ、忘れてた」
「記憶喪失してましたって言い訳したら?」
「あ、それいい」
大事にしたって、簡単に忘れるくせに
「今日ってハードルよな、確か」
「うわ、嫌だな、俺も忘れた事にしようかな」
「二人揃って記憶喪失しました!って?」
「うん」
「うそくせー」
「ははは」
誰か本当に俺の記憶を無くしてはくれないだろうか
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