喧嘩をした
『理由なんて無かった』
きっかけはもう何だか覚えていない、それぐらい些細な事だったと思う
だけどどっかで掛け違えて、そのまま元に戻せなかったのだと思う
「おはよ」
「おはよ、お前さあ小林となんかあった?」
「ちょっと喧嘩した」
「だからか、これ返しといてって、はい」
宇野が渡してきた物は先日貸したDVDだった
そら態々人づてで返すって事は俺と顔を合わせたくないって事で
宇野が何かあったと思うのも当たり前だろうが
本人は教室の何処にも見えない
とことん俺とは会いたくないらしい
「何が原因なん」
「覚えてない」
「どっちが悪いの」
「わからん、気がついたら口論してた」
「んー、でも小林があそこまで怒るって相当だろ」
「怒ってた?」
「多分、顔めちゃ怖かったし」
実は小林が本気で怒る所なんて見た事がなかった
そもそも喧嘩なんてしないし
どっちが悪いかも覚えてない喧嘩だけど
やっぱり謝った方がいいのだろうか
でも何を謝ればいいのかわからない
「謝ったほうがいいんかな」
「悪くないのに謝らなくてもいいでしょ」
「そうかね」
「気持ちのない謝罪なんてなんの意味もないよ」
「そうだね」
初めはそのうち戻ると思ってた
気がついたら今までと同じ様にくだらない会話をしていると思っていた
そう思い続けて既に一ヶ月が経っていた
この頃は小林の姿もまったく見なくなって
あんなに毎日会っていたのに、こんな簡単に会えなくなるもなのだと気付いた
しかも風の噂で小林に彼女が出来たと聞いた
なんだあいつ羨ましい奴め、てか俺の事はやっぱり冗談だったんだな
あれか、彼女が出来ない俺に対しての同情だったのか
今となっては何も解らん
「宇野、飲み行こうぜ」
「無理、バイト」
「ええぇー」
「お前さあ、俺を小林の代わりにするなよな」
「してねーよ」
「してるだろ、お前今まで何かあるとすぐ小林だったろ」
「違う」
「違わねー、小林はお前の我侭にとことん付き合ってたけど俺は違うんでそこんとこちゃんと理解しろよ」
「我侭って」
「それを享受していた小林の気持ちもちょっとは考えてやれよ、じゃあな」
「ちょっ、おい」
引き止めたけど、宇野は後ろ向きで手を振るだけだった
なんだよ俺が我侭って
そりゃ小林は嫌と言わないから甘えてた所はあるかもしれないけど
何だろうな、最近宇野はピリピリしてるというか、冷めている
小林の気持ちって何だよ
解んないからこんな事になってんだよ
「ちょっと辛辣じゃね?」
「小林」
「増田悩んでんじゃん」
「お前は甘すぎだ、つか俺はあいつの我侭には付き合いきれん」
「えー、我侭かな?そこがいい所だと思うんだけどな」
「何も知らずにいたら俺もそう思ってたけどな、お前の状況と比べると能天気すぎてむかつく」
「あれは自己防衛本能でしょ」
「お前さあ、さっさと仲直りした方がいいんじゃないの?」
「それは、まだ無理かな、」
「あっそ、じゃあな」
「ばいばい」
うだうだと考えても考えても答えはまったく出てこなくて
もうしょうがないので、この状況はどうにも嫌なので
直接小林に会いに行くことにした
多分こうしないと絶対に会えないと思ったから
「・・・」
「よう」
突然訪ねたので小林は酷く驚いたようだ
俺も正直ドキドキしていた
久しぶりすぎて、どんな風に話していいか分からなかった
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
「入れば」
「お、おう」
久しぶりの四畳半は変わらずそこにあった
「お茶で悪いけど」
「あ、ああ、お構いなく」
ダメだ、何か凄く緊張している
「で、話って」
「あ、うん、何かさ、最近全然会ってないじゃん」
「うん」
「それで、えと、気まずくて」
「うん」
ああダメだ、俺は一体何を言っているんだ
こんな事を言いたいわけじゃないんだ
「あー!!正直さ、喧嘩の理由とか覚えてねーし、どっちが悪いとかも覚えてねーの
だから謝る事なんて出来ないし、でも今のこの状況はすげー嫌なの
俺が悪かったなら言って欲しいし、言いたい事あるなら言って欲しいし
要は仲直りしようぜって事なんだよ!!」
上手く言葉が出てこないので、思っていたことをぶちまけてしまった
暫くの沈黙の後、静かな笑い声が聞こえた
何だ、何故笑う、面白い要素なんてあったか?
「何で笑うんだよ」
「だ、だって、お前すげー必死なんだもん」
そう言うと声をあげてゲラゲラ笑い出した
「必死で悪いかこのやろー!!」
「はっはっは、悪くない、悪くないよ」
「じゃあ笑うな!」
「そうだね、ごめん、何かお前に会ったら自分がくだらなくなってきて笑えてきた」
「何それ」
「いや、いいんだ、ちょっと色々考えすぎてたみたい、すっきりした」
「そうなん?ならいいけど」
「うん、ありがとう」
そこで何故礼を言われるのか分からなかったが
小林がとてもいい笑顔をしていたのでありがたく受け取っとく事にした
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理由なんて初めから無かった
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