好きなのに
『恋』
喧嘩をした
理由はもう覚えていない
それほどなんでもない事だったのだと思う
だけどお互い気まずいまま時間が経って
気がつけば交流がなくなった
無くなって初めて気付く事がある
しかしこのままだと何れ無くなっていたものだ、そう思ったら今無くしたままの方がいいのかもしれないと思った
今の方が、まだ辛くない
その時はそう思った
「増田元気?」
「気になるなら自分で確かめたら?」
「宇野くん、君結構厳しいね」
「お前の所為だぞ、増田を甘やかすから俺が始終相手せにゃならん」
「いいじゃん、頼られてる証拠じゃん」
「お前の役目だろ」
「俺はね、もう辞退します」
「嫌気が差したか?」
「いやあ、逆かな」
「逆?」
「あいつと顔を合わせる度に好きだなーって気持ちがでかくなってたまらなくなって怖くなった」
「怖い?」
「ずっと一緒にいたいけど、いつか自分の気持ちが抑えられなくなって、拒絶されるのが怖い
だからいっその事もっと好きになる前に離れてしまおうかと思った」
「だけどそれも辛いんだろ?」
「うん、でも好きな人とずっと仲がよくても絶対好きになってもらえないのも辛いと思う」
「まあ、うん」
「きっといつか耐えられなくなる」
「お前、結構本気だったんだな」
「あれ、そう見えなかった?」
「お前等はよくわからん、傍から見てると増田も満更でもないと思うんだけど」
「あいつはね、俺の事信用しすぎてるから駄目なの、何やっても危機感ないもん」
「何やっても、って何やったんだよお前」
「いや、大したことはしてないけど、でもその信用が大きすぎて、裏切れないんだよね」
「お前さ、結局どうしたいの」
「それが解れば悩んでないよ」
「そうか」
忘れなきゃと思っても、ふとした瞬間に思い出す
日付が変わるか変わらないかの時間に来るかもしれないという期待感
忘れてしまいたいと思っているのに
そう決めたのに
顔を合わせなくなってもどんどん好きになっているのだ
「だめだなあ、」
呟いても誰の返事もない部屋
「好きだよ、増田」
言葉に出したら涙が出てきた
こんなにも好きになっていたのだ
それからしばらくして告白というものをされた
そんなん初めてで、びっくりして、でも全然嬉しくなくて
何度か遊んでみたけど、全然楽しくなくて
申し訳ない気持ちで一杯だった
それからまた暫くして、宇野と喋っている増田を見かけた
大分イラついている気がした
俺がこんなに悩んでいるのだから、あいつも悩めばいいと思ったりもした
それだけ俺の存在が大きければいいのに、と
「・・・」
「よう」
それは突然やってきた
ようやく俺が深夜の来訪者を期待しなくなったそんな頃
増田がやって来た
タイミングが悪すぎる
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
「入れば」
「お、おう」
一体今更何の話だろうか
まあ、この状況の事についてなんだろうけども
どう説明しろというのだろうか
まさかここで告白なんてもっと拗れるだけだし
「お茶で悪いけど」
「あ、ああ、お構いなく」
増田が緊張している
俺も緊張している
「で、話って」
「あ、うん、何かさ、最近全然会ってないじゃん」
「うん」
「それで、えと、気まずくて」
「うん」
「あー!!正直さ、喧嘩の理由とか覚えてねーし、どっちが悪いとかも覚えてねーの
だから謝る事なんて出来ないし、でも今のこの状況はすげー嫌なの
俺が悪かったなら言って欲しいし、言いたい事あるなら言って欲しいし
要は仲直りしようぜって事なんだよ!!」
思いのほか直球でびっくりした
でも、その分素直に心に響いて
俺と離れたくないと、増田は言ってくれたのだ
別に好きだと言われた訳じゃない
なのに、その気持ちがとても、凄く嬉しくて
笑いが込み上げてきた
「何で笑うんだよ」
「だ、だって、お前すげー必死なんだもん」
必死すぎて、自分がぐだぐだ考えていたことが馬鹿みたいで
やっぱり好きだなあ、と再確認して
忘れる事よりも、認めるほうがずっと楽で
「必死で悪いかこのやろー!!」
「はっはっは、悪くない、悪くないよ」
「じゃあ笑うな!」
「そうだね、ごめん、何かお前に会ったら自分がくだらなくなってきて笑えてきた」
「何それ」
「いや、いいんだ、ちょっと色々考えすぎてたみたい、すっきりした」
「そうなん?ならいいけど」
「うん、ありがとう」
なあ、俺、もうちょっとお前の事好きでいてもいいかなあ
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こい〔こひ〕【恋】= 特定の異性に強くひかれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。
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