ガタガタガタ
聞こえるのは馬車の走る音だけだった
02
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「着いたぞ、降りろ」
馬車の扉が開かれる、光がまぶしい
しかし降りろと言われても俺は動ける状態じゃないのだ
「すいません、せめて足の紐を解いていただけないでしょうか」
おもいっきし下出にでて頼み込む
するとそいつは、チッ、と舌打ちをしてから紐を解いてくれた
何で俺がこんな目にあっているのか、本当に訳がわからない
俺はただ一刻も早くもとの世界に帰りたいだけなのに
原因は全てあのちみっこだ
あの後、俺達の元へ馬車が近づいてきて男が一人、降りてきた
何やら昔の中国の鎧みたいなのを着込んでいて、
ここは全然別の世界なんだな、と改めて認識した途端に剣を向けられた
剣を向けられるなんて生まれて初めてで(当たり前だ)逆に危機感というものがなかったのはよく覚えている
「お前何者だ」
といわれたので
なんと答えようか、と考えていたらちみっこがいきなりこういったのだ
「にーさまのおよめしゃん!!」
と。
まてまてまて、と思ったら剣を向けてきた奴もそう思ったらしく
しばらく固まっていた、いや普通そうだよな、男がお嫁さんです、って言われてもびっくりだよな
ぼけっとそう考えていたらいきなり拘束されて馬車の荷台に投げ込まれたのだ
意味がわからない、わからなさすぎて口答えをしたら
「煩い、俺は今機嫌が悪い、次騒いだら斬る」
と凄まれてしまったので俺は黙るしかなかったのだ
そして今に至る
斬られるのはやっぱり嫌なので、できるだけ奴の機嫌を損ねないようにしなければならない
俺はいったいこれからどうなってしまうのだろうか…
「おい貴様、チンタラしているな、さっさと着いて来い」
「あ、どうもすいません」
馬車を降りた所はどうやら町らしかった
そういえば、ちみっこの姿が見えない
「なぁ、ちみっこいねえけどいいのか?」
「坊ちゃんなら先に城に届けさせた」
「城?」
「あそこに見えるだろう、あれが我等の国の象徴だ」
なるほど、遠くの方に城が見える
そうか、ここは城下町ってやつか…って、ちょっと待て
「も、もしかして今からあそこに行くのか?」
「そうだ」
「こ、このまま歩いて行くのか!?」
「当たり前だろう」
当たり前、という距離では決してないと思う
現代の若者の体力の無さを知らないのか、といいそうになったが知るわけがないのでやめた
しかも、町行く人々の視線が痛い
まあ、服装が違うから好奇の目で見られてもおかしくはないだろうが
多分理由はそんなんじゃない気がする
絶対罪人かなんかだと思われてる気がするんですけど、だって腕を拘束されてて、しかも紐で繋がれてるんだぜ?
その紐の先は前を歩く奴だよ?武人って感じじゃん、俺思いっきり捕まりましたって感じじゃん
本当に俺どうなるんだろう、本日何度目かの不安が俺を襲った
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もう陽もほとんど沈みかけた頃、ようやく俺達は城へとたどり着いた
武人曰く普通は倍早く着くらしい、それだけ俺が体力なかったということだろう
こちとら便利にあふれている国から来ているんだ、自分で何キロという距離を歩くことなんてないんだ
ともかく、城に着いて一安心だった、これで歩かなくてすむのだろう、きっと
何で城に連れてくられてのか、とかは全然わからないが相変わらず流れに身を任せてみる事にした
「ここでしばらく待っていろ」
武人にそう言われ、俺は城の一室へと通された
壁一面が本で埋まっている、一冊見てみたら全て漢字らしき文字だったが解読はできなかった
どうやら使用する文字は別物らしい
ガチャリ
その時武人とは別の人間が部屋に入ってきた
20代後半ぐらいの、おっとりとした人物だった
「お前さんか、坊が召喚したとかいう御仁は」
「は、はあ」
「構えなくていいぜ、別にお前に悪さするつもりはない」
「はあ…」
「まあ、少し話しをしようじゃないか」
立ち話もなんだし、と椅子をすすめられたのでありがたく座ることにした
ついでに手の拘束も取ってもらった
「悪いな、あいつは軍団長をしている所為か疑り深くてな」
「いえ、別に」
「まあまずは自己紹介か、俺はシドというこの国の宰相をしている」
宰相、といわれてもピンと来ない、まあ結構偉い地位なんだろうか?
もんもんとしていたら、お前さんは、と聞かれたので答えた
「ヒロキといいます」
「ヒロキ…?どんな字を書くんだ?」
と言われ紙と書くものを差し出されたので弘輔と漢字で書いてやった
シドとかいう男はこれでヒロキと読むのか、などといっている
「この右の字はわからねえが、左の字ならこちらではコウと読むんだ」
「それは俺の世界でも一緒みたいですよ」
「そうか、何か似通った部分があるみたいだな」
そしてシドはふむ、と考え込んでしまった、話をするのではなかったのか
「すいません、あの」
「あ、ああ、すまん、えと、何から話そうか」
「俺は元の世界に帰れるんですか?」
「ははあ、いきなり確信か坊主、なんというかだなあ、まあ色々と制約がだなあ」
「結論だけでいいですから」
「そうか、まあ今のままでは確実に帰れないといっても過言ではないな」
帰れない
恐れていたことをはっきり言われてしまった
俺はこれからどうすればいいのだろうか、この世界で、右も左もわからぬままのたれ死ぬのだろうか
「そんなに悲観的になることはないだろう」
「これがならずしていられますか?」
他人事だからこいつはこんなに簡単にいってのけるのだ
もし自分がそんな状況になってしまったらそんなに落ち着いていられるのか
「今のままでは、と言っただろ、望みは捨てちゃいかんよ、少年」
「は?」
「ま、状況を確認するためにも、しばらく俺の話を聞いてくれ」
「まず、この国には今二人の皇子がいる、第二皇子がお前さんがあったあの子供だ」
「それは聞きましたけど」
「そうか?じゃあ坊が召喚術を使えるのもそれをした理由も」
「お兄さんに会いたかったからなんでしょう?」
シドは驚いた、という顔をしていたが俺はただあのちみっこが言っていた事を口にしただけだ
何か変なことを言ったのだろうか
「いや、すまん、お前さんは受け入れるのが早いな」
「そうですか?」
「まあいい、それじゃあこの国の言い伝えも知っていると思うが、第一皇子は第二皇子が召喚した者を嫁に取るという言い伝えがある
実際今の王の妃も召喚された者だ、亡くなられたがな」
「言い伝えというか、習慣みたいな感じですね」
「まあそうとも言うな、しかし第一皇子と坊は歳がかなり離れていてな、今回は無いと思っていたんだ
そもそもこの国では17歳で成人して嫁を取る、しかし第一皇子が17のときに坊はまだ3歳だ、召喚術なんて使えるわけがない
それで隣国の皇女を嫁に迎えるという話がでたんだが、まあこれがいろいろあってな、結局断った、王位も坊に譲ると言ったんだ
それからというもの第一皇子は街で遊んでばかりでな、中々城にも戻ってこないのだ、しかし坊はかなりのお兄ちゃん子だ
寂しい思いをしていたんだろうな、薄々分かってはいたが…今回はそれが溜まりに溜まって行動を起こしてしまったみたいだな
しかも坊はまだ子供だからな、力が不安定だったんだろう、そしてお前さんがここに来た」
「はあ」
さっきからこれしか言ってない気がする
だっていきなりこんなこと言われても理解ができない、だから特に反応が返せない
俺は受け入れてるわけではなく、理解をしていないだけなのだ
しかしまあここに俺がきてしまった経緯というのは大体分かった
なんで学校の鏡につながっていたのかは分からないが、あの七不思議といいこの国の習慣といい
もしかしたら昔にも同じようなことがあったのかもしれない、だったらまだ望みは消えちゃいない
「で、まあここからが本題だ、お前さんは元の世界に帰りたいか?」
「それは、もちろん」
「だよな、だったらこちらから条件がある」
「条件?」
「ああ、この国の言い伝えどおり、お前さんにゃ第一皇子の嫁になってもらう」
「は!?」
「それを呑むのであればお前さんが帰れる確立は格段に上がる」
「え、ちょっ、待って」
俺が、男の嫁になるって!?
いやでも男だったら嫁とは言わないんじゃないか?
ってかそんなのが許されるのか?
いいやそれよりも…それで帰れるの、か?
「さぁて、どうするヒロキ?」
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