「…どちら様ですか?」
「あ、えと、町の者ですけどこちらに五郎がお邪魔してませんか?」
「五郎?」
「まーでもよくこんな所まで来たねえ」
「すいません」
「いいよ、町の人が来るなんて珍しいから」
「おにーさん名前なんていうんですか?」
「んー、カイ」
「カイさんはいつからここにいるんですか?」
「いつからかなあ、随分と昔の事だから覚えてないや」
「え、いくつなんですか?」
「28ぐらいだと思うけど」
「え、嘘!?」
とてもそんな歳には見えなかった、童顔なのだ
一応さんづけで呼んでみたが実はタメぐらいだと思っていたのだった
そういえば三太も同じぐらいの歳だった気がする
同じ歳でもここまで違うのか、人間って不思議だ
「でもこんな所に住んで何やってるんですか?」
「案内人、毎日ランプを灯してるんだ、迷っても灯があればこっちにくるでしょう?」
「その通りですね」
まさに俺がそうでした
「そういう人達を泊めてあげたり外まで送ってあげたりしてるんだ」
「へー、凄いっすねー」
「君はどうして森にきたの?」
「俺は五郎を探しに…」
「五郎?そういえばさっきそう尋ねてきたね、人?」
そうだ、そうでした、五郎の事すっかり忘れていました
「いや、五郎はトナカイなんです変な名前でしょう?」
「…トナカイ?」
「そうなんすよ、隣に三太って奴が住んでて、そいつのトナカイなんですけど」
「さんた…?」
「カイさんと同じぐらいの歳なんですけどねー、もうおっさんっすよあれは、ダメ人間って感じだし」
三太の名前を出すと何故かカイさんはだ黙ってしまった
表情も心なしか固くなっている
もしかして知り合い?
「三太を知ってるんですか?」
「え、いや、そうじゃなくて」
ガタッ
「ん?」
その時ドアの方からなにやら物音が聞こえた
カイさんがドアを開けるとそこにいたのは
「五郎!!」
五郎という名のトナカイでした。
「五郎どこいってたんだよ!!心配したんだからな!」
しかし五郎は俺の所には来ず、カイさんにひたすら懐いている
なんだ五郎、俺じゃ不満か五郎。
「五郎って、お前の事だったのか」
「え、お知り合いですか!?」
トナカイと知り合いって何者だこの人!?
っていうか他のトナカイと見分けつくのか?
「うん、昔一緒に仕事してたんだ、お前俺の事覚えててくれたのか」
カイさんが五郎を撫でている
五郎は凄く嬉しそうだ、少し悔しいなんて思ってしまったりして
ガキだな、俺
「でも何でこんな所に?」
「あ、俺手綱放すなって言われてたのに放しちゃって、そしたら五郎が速攻で森に入ってっちゃったんだ」
「ああ、そういえば今日はクリスマスだったね」
「それ、三太も言ってたけどクリスマスだと何かあるんですか?」
「帰巣本能みたいなものだよ」
しかしそういわれてもよく解らない
でもカイさんはそれ以上は応えてくれそうになさそうだ
まあいいか、後で三太にでも聞くか
「あ、じゃあ五郎も見つかったし、俺そろそろ帰りますね」
「ん?ああ、そうだね、もう遅いし」
「そういえばどうやって帰ればいいんでしょう?」
「五郎に乗っていきな、勝手に町まで行ってくれると思うよ」
「ほ、本当ですか?迷いませんか?」
「大丈夫、な、五郎」
カイさんがそう言うと五郎は頷いた
え、何こいつ言葉が解るの!?
「じゃあ、すいません、お世話になりました」
「とんでもない、久々に町の人と話せて楽しかったよ、よかったらまたおいで」
「はい、ありがとうございます、じゃ行こうか五郎」
そして五郎は俺を乗せて真っ暗の森を走り出した
振り返ると赤い灯がどんどん小さくなっていった
しばらく走っていたら今度は前方に赤い灯が見えた
え、まさか元の場所に戻ってるんじゃ?
と思ったが、少し回りが明るくなっていることに気がついた
どうやら町まで帰ってこれたようだ
そして森を抜けた町で赤い灯を持って立っていたのは三太だった
「あの、三太ごめん、俺」
「あー、いいわ別に、おばさんたち心配してたぞ」
「今何時?」
「もうすぐ20時」
「うわっ、そんなに経ってた!?」
「お前、森で迷子にならなかったのか?」
「え?バッチリ迷子になったよ、でもカイって人がいてね大丈夫だった」
「カイ?」
「うん、五郎と知り合いだって言ってたよ」
「ふーん、まあ無事ならいいや、早く帰れよ」
「三太は?」
「ちょっと野暮用」
「じゃあまたな!」
「ああ」
まったくこんな時間になっているとは思わなかった
今日はクリスマスって事はご馳走のはず
残ってるかな、それよりも怒られるのが先か
しかしこんな時間から用事って何なんだろう?
チラリとみた三太は森を見ていた
俺はその時三太は哀しんでいる、そう思った
理由はわからない、ただ俺がそう思っただけなのだけども
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