正直な話、三太が嫌いだった
何に対しても適当で
名前だって適当で、
トナカイは生涯サンタのパートナーだ
だから名前は一生のものだし
サンタから貰う最初で最後のプレゼント
だから適当に決めたといわれた時、酷く落胆した
こんな適当な奴に生涯を奉げるのか、と
賑やかな夜、皆でやぐらを囲み、周りに出店
隣が誰かも気にせず酒を交わし笑いあう
初めて来た後夜祭とやらは想像とは違うものだった
厳かな物だと思っていたがとんだお祭り騒ぎだ
しかし凄く楽しそうで
彼が言っていた言葉が理解できた
「あ、カイさーん!!」
「やあ」
「本当にきてくれたんですね!」
「そう言ったじゃないか」
「そうですよね、ありがとうございます!!」
そういう彼はとても嬉しそうで
こんな風に人とかかわるのは随分久しぶりだから
こちらも自然と笑みが零れていた
「あ、三太は今日はずーっと寝てるんできっと外でてこないですよ、だから大丈夫です」
「ふふふ、わざわざありがとう」
「いえ!あ、飲み物取ってきますね!!」
後夜祭は夜になっても続いていた
聞けば明日の朝まで続けられるらしい
さすがにそこまで体力がないので戻る事にした
泊まっていけばいいと誘われたが断った
本当は会いたいのかもしれない
だけど今更会うのはこわかった
ひっそりと静まる森の中を歩いていくと赤い灯が見えた
しかし小屋が見える距離になった頃、異変に気がついた
小屋の明かりがついている、おかしい、誰かが勝手に入ったのだろうか
物盗りかもしれない、こんな所では殺されても誰もわからないだろう
俺は慎重に扉を開けた、
しかし中には誰もいなかった、でも鍵は開いていた
どういう事だ、と考える間もなく背後で音がした
振り返るとそこには
三太がいた、
「よお」
「久しぶり」
「ああ」
「元気そうで」
「ああ」
「ここで何してるの」
「お前こそ」
「何それ」
「なんでここにずっといるんだよ」
「俺が何処に居ようと勝手だろ」
「トナカイはサンタの生涯のパートナーなんだろ」
「サンタが勝手に出て行ったんだろ」
「だから出て行けばよかったのに」
「三太がいなくなったなら俺が出て行く必要はないじゃないか」
「無理矢理ヤられた場所なのに?」
「それが?」
「たいした問題じゃないってか?」
「トナカイはサンタの生涯のパートナーだからね」
「お前の感情は関係ないってか」
感情も何も
俺の中では、サンタとトナカイは生涯のパートナーであって
何があろうとも共に生きるものなのだ
それがトナカイの、俺の存在意義であり、意思なのだ
そういうものなのだから仕方ない
そのサンタがいなくなってしまえば俺は存在する意味も価値もない
ただどうしてよいのか判らず、無闇に探し回るのではなく
戻ってくるのを待っていただけなのだ
「じゃあ、三太は俺に何を求めていたの?」
まさかあんな無理矢理な事をして好きになってもらえるとでも思っていたのだろうか
あんなのこっちからしてみれば暴力だ
「何だろうな、今となっちゃよくわからねえよ」
そう思うぐらい長い月日が経ったのだ
「俺はさ、三太が俺の事を好きでも嫌いでもずっと一緒にいるつもりだったよ」
「それはトナカイだからだろ」
「だからさ、トナカイはサンタの生涯のパートナーだっていったろ本能で一緒にいるんだよ」
「そこに感情はないんだろ」
「どうだろうね、正直に言えば三太の事嫌いだったよ」
「…」
「だけど何でだろうね、離れている間は平気だったのに、今は」
サンタとトナカイが生涯のパートナーという意味がよくわかった
これは本能という言葉以外思いつかない
嫌いだったはずなのに、会えばそばに居たくなる
「お前に、プレゼントを届けにきた」
「え?」
「自由をやる、何処へでも好きにいけばいい」
「へえ、今更?」
「お前がまだこんな所にいるから」
「そう、じゃあありがたく受け取ることにするよ」
「・・・じゃあ、帰るから」
「そう、気をつけて」
三太は無言で出て行った
そして俺は自由を手に入れた
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