自由になって変わったことは、何もなかった
あの日三太に自由を言い渡されてから一月が経った
しかし俺は相変わらず小屋にいる
好きな所へ行けと言われても、いく場所なんてないのだ
いや、あるにはある
しかしそこへ行くのには時間が経ちすぎた
久しぶりに会って、己の本能を悟った
サンタからは離れられない
これはまぎれもない事実だった
いくら感情がそれを否定しても、本能は渇望しているのだ
だから俺は動けずにまだここにいるのだ
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「なーなー、カイさんの所いこーよー」
「朝からうるせえな」
「もう昼だっつの」
「俺はまだ寝たばかりなんだよ察しろ」
「いや知らねーし」
「つかあいつはもういねーよ」
「え」
「もうどっか行ってるだろ」
「…三太とカイさんてどんな関係なの」
「どうだっていいだろそんなの」
「よくないよ、気になるもん」
「子供が大人の人間関係に口出しすんな、出てけ」
ぴしゃりと、拒絶されてしまった
三太の言うとおりなのだけれども
だって気になってしまうのだから、しょうがない
二人の関係と、三太と、そしてカイさんの気持ちが
二人がモヤモヤしているから、俺もモヤモヤしてしまうのだ
後夜祭の時、カイさんは嫌がっていたけれど実はこっそり三太と会わせようと思っていた
しかし三太の家にいってもあいつは居なかった
いつ戻ってくるのか判らなくて、カイさんを引きとめようとしたが上手くいかず
一人もんもんと三太の家の前で待っていたら三太が戻ってくるのが見えた
森の方から
「さん…」
とても、話しかけられる雰囲気ではなかった
感情が、よく、解らなかった
三太は俺には目もくれず、横を通り抜け自分の部屋へと帰っていった
きっと何かあったのだ
それはあまり好ましいことではなかったのだ
多分
それ以来三太はカイさんの事にはまったく関心を示さない
というか話題に出すとさっきみたいに拒絶される
なんなんだ一体
なんで俺がこんなにモヤモヤしなきゃいけないんだ
三太はカイさんがもう居ないといっていた、だったら確かめてやろうと思った
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気がついた時には太陽は既に沈んでいて、窓の外は暗かった
そして何やら騒がしかった
外へ出てみると隣の家のおばさんが何かを探し回っていた
どうしたのかと聞いてみると息子がいなくなったとの事で
息子って今朝俺の枕元でギャンギャンいってた奴だよな、と脳内変換した
どうやら日暮れまでには戻ると昼過ぎ出掛けていったらしいがまだ戻らないらしい
この町は小さい
町を全部回っても日暮れまでに戻れない事はない
なら多分町を出ているはずだ
町を出て何処へ行く?
今朝の会話を思い出す
「まさか森じゃねえだろうな」
あの森は町の人間だって入らないのだ
子供が一人で入って迷わないはずがない
あわてて五郎を確認してみる
五郎はそこにいた
「五郎、でかけるぞ」
せめて五郎を連れて行けばよかったのに
なんなんだあのガキは
いちいちお節介焼きやがって
「その結果がこれかよ」
俺は赤いランプを軒に灯して五郎を連れて森に向かった
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「こ、怖いよぉ」
森に入ってしばらく歩いていたが、どこへ向かえばいいのか判らなくなって
そういえば赤い光を頼りにして歩いた記憶が、と思ったがまだ明るくて
とりあえず入ってきた方向と逆に歩いていた
辺りを見回しても小屋は見当たらなくて、道すらなくて
外すら見えなくて、どこからきたのか完璧に判らなくなった
やばい、これは迷子だ
迷子の時は動かないほうがいいと聞いた事がある
だけど森に来るなんて誰にもいってないし、まだ明るいし
周りが見えるうちにがんばって脱出しようと思った
しかしそのがんばりも虚しく、空は段々暗くなっていって
今では辺りは真っ暗で、赤い光も見えなくて
「暗いし、寒いし、怖いよ」
誰か助けて
三太助けて
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森に入って、暫くして、赤い光が見えた
なんでこの光がまだあるのか
まさか、まだあそこにいるのか
それともあのガキがいるのか
とりあえず俺は五郎と赤い光に向かって走った
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